人の形をした沼の話 「死刑にいたる病」感想【ネタバレあり】

映画鑑賞


ついつい邦画を選んでしまいがち。なぜかというと、画面に集中しなくても良いから。
よくないんですよね、この選択方式。

でもこの映画は観てよかった。「死刑にいたる病」です。

  • 監督:白石和彌
  • 脚本:高田亮
  • 出演:阿部サダヲ、水上恒司、岩田剛典、宮﨑優、中山美穂
  • 上映時間:128分
  • 公開日:2022年05月06日

映画「死刑にいたる病」とは

理想とは程遠いランクの大学に通い、鬱屈した日々を送る雅也(岡田健史)の元にある日届いた1通の手紙。それは世間を震撼させた稀代の連続殺人事件の犯人・榛村(阿部サダヲ)からのものだった。24件の殺人容疑で逮捕され、そのうちの9件の事件で立件・起訴、死刑判決を受けた榛村は、犯行を行っていた当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよくそこに通っていた。「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明してほしい」。榛村の願いを聞き入れ、雅也は事件を独自に調べ始める。そこには想像を超える残酷な事件の真相があった――

「死刑にいたる病」/Filmarks

中学時代、塾の前に通っていたイートインのあるベーカリー。

優しく穏やかな店主が、24人もの殺人を犯した連続殺人鬼だったら。

普通に生きていれば絶対起こることのない非日常。

鬱屈した生活の中、降ってわいた「イレギュラー」に取り込まれていく主人公。

収監されてなお穏やかで、優しく、人当たりのよいパン屋の店主の正体とは。

「死刑にいたる病」感想(ネタバレあり)

初っ端の殺害シーン映像がなかなかのグロ映像。

これが苦手な人はここで断念してしまいそう。あと、悲鳴が苦手な人もダメかもです。

ここを乗り越えれば徐々に人間ドラマになっていくんですが、どちらかというとそっちの方が怖い映画でした。

阿部サダヲさんの演じる榛村という男が、とにかく怖い。

この榛村、終始優しく穏やかな語り口なんです。

人の話を聞く。でも言いたいことは言う。その語りがとにかく穏やかで、押し付けるような感じもなく、「この人は自分のことを理解してくれるかもしれない」と思わせてしまう。

そうしてじっくり自分の「正解」を相手に刷り込んでいき、「この人に逆らってはいけない、自分の価値がなくなるのでは」みたいな錯覚を与えてしまう。

いるんですよね、こういうタイプ。ある種のフレネミーに近い何か。私はこういうタイプに騙される自信があります。

シリアルキラーで言うとスリルタイプになるんでしょうか。

スリル

このタイプのスリル殺人は、被害者たちに痛みや恐怖を与える事で刺激や興奮を得る。スリル殺人では通常、性的コンタクトは発生せず、被害者はランダムに選ばれる。このタイプのシリアルキラーは長期間、殺人を控えることも出来る。犯行を重ねるごとに手口が向上し、完全犯罪を目指し自分は捕まらないと考える[16]ロバート・ハンセンがそのタイプである[17]ゾディアック事件でも、「殺人はセックスよりもよい。もっともスリルを与えてくれる」と書いた手紙を新聞社に送っている[18]カール・ユージン・ワッツはその被害者から「楽しんで興奮していた」と証言されている[19][20]

シリアルキラー/Wikipedia

榛村は、なんでパン屋なんてしてるんだろう? と思ってしまうほどに人心掌握に長けており、とにかく頭がいい。
相手をコントロール術を心得ている。

「誰も自分をわかってくれない」って思いこんでしまう中高生にとって、自分を理解してくれるような言葉を重ねてくれる年上の男性の存在って、めちゃくちゃ大きいんですよね。
榛村はその辺りを理解して、どんどん若い男女の心に入り込んでしまう。

その結果、彼ら彼女らは命を奪われてしまう。残虐な方法で。

阿部サダヲさんは、コメディタッチの三枚目役のイメージが強くて、バイプレイヤーとしての位置を確立していた……と勝手に思っていたんですが。

この榛村という男、とにかくヤバいです。

死刑囚という立場でありながら看守と穏やかに家族のことについて語り合ったり、被害者の遺体を焼いた窯がある家の近くの住人には「嫌いになれないなあ」とまで言わせてしまう。

とにかく人当たりがいい。人の本音を引き出す。人の心に入り込む。

そうして静かに、穏やかに、淡々と、優しく語る榛村大和の横顔は、なぜか異様なまでに美しく見えてしまう。

これは本当に、阿部サダヲさんの演技力のなせる業なんだな……と思います。
普通に見える人間が内に秘めた純粋さと狂気のようなものを、映像の中でいかんなく発揮しているな、と。

オチについては「それでいいんかい」という気持ちにはなりましたが、それも榛村の恐ろしさを際立てるエピソードとしては良いのかもしれません。

死してなお、雅也も、金山も、灯里も、衿子も、生涯を通して榛村の影に囚われ続けていくんだろうなと。

その結果、このうちの誰かが榛村の傀儡として何か事件を起こすんじゃ……という恐怖もあります。

死んだ後も自分の影響下にある人間が存在するなんて、ある意味では羨ましい生き方なのかもしれません。だからといって、榛村が雅也や衿子たち生きている人間、そして命を奪われてしまった人たちにしたことは絶対に許してはならないことなんです。

なんです、けど。

それでも「榛村さんはいい人だったよね」と言わしめる恐ろしさがあると思います。


アマプラでみたよ。

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