多分、明日もそこに『桜田ファミリー物語』感想
※2019/07/07 noteに公開した記事となります。
2019年7月6日、土曜日。
スプリングマンという劇団との出会いは今から8年前になる。
その時勤めていた会社の先輩が「彼氏が出る舞台があるんだけど」、と
チケットノルマを果たすために誘ってくれたことから始まった私のささやかな観劇趣味。
そこからちらほらと興味のあるお芝居を観に行くようになって「そういえばこの人前見た舞台に出てたっけ」なんて安直な考えで足を運んだ下北沢の劇場。
「ワンダーランド」というそのお話は身近にいそうといえばいるし、こんなやついるわけないだろ、と思えばいるわけもない、でも何だか心臓の奥のあんまり突いて欲しくない場所を抉ってくるささやかな日常のお話だった
それで、なんでか。
なんでか分からないけれど、それからも何度かその突いて欲しくない場所を抉って欲しいと思って、三度ほど足を運んでいます。
そして期待を裏切らず私の一番触れて欲しくないところを丁寧に抉ってくれる、そんな劇団です。
7月、中野。
東京のどこかにある、桜田さんというおうちのお話、「桜田ファミリー物語」もまた、人の心を丁寧に抉るお話でした。
<あらすじ>
桜田家は東京で豆腐店を営んでいます。
桜田家には従兄弟やらなんやら7人で暮らしています。
ある日、桜田家の家長マサトの元へ腹違いの弟リュウジが訪ねてきます。
どうやら桜田の父が残した遺産のことで訪ねてきたようです。
20年ぶりに弟がやってくる日。
マサトはソワソワしています。
マサトの妻のチエはそんな夫が少し心配です。
マサトのいとこのリコは野良猫のフンに悩まされています。
その夫のナオトは家の老朽化を心配しています。
リコの弟のケンジとタクは仲がすこぶる悪いです。
マサトのいとこのハルキはパソコンが得意です。
そしてマサトの腹違いの弟リュウジは、ムズムズしているのです。
そんな桜田家のたったの2日間のお話です。
あらすじ:公式より引用
東京のどこかにある、昔ながらのお豆腐屋さんの主のところへ、腹違いの弟、つまり父の愛人の子が遺産の件で尋ねてくるという、どこまでも非日常なお話です。
確かに父の愛人の子が訊ねてくるなんてことそうそう起こらないし、いとことその配偶者ばっかり7人で暮らしているような家はそうそうない。
それでも桜田家で起きたこの二日間の出来事は、何故かものすごく身近なことに思えてしまう。
たとえば、家長・マサトのいとこ、リコの夫婦の問題。
家族の中に家族じゃない人間が、家族として新規参入したことで起きる小さな齟齬の積み重ね。
それは「ちゃんと言わないから」という問題なのに、何故か「血が繋がってないから」の疎外感に繋がってしまいがちな、なにか。
それから、リコの弟たち。
片やいわゆるチャラ男。「家業が豆腐屋だからなんとなくでバイトしてる」と言われる弟と、「引きこもりで将来が不安」と言われる兄。
二人とも将来も、家族のことも、それなりにきちんと考えているのにそれを上手に伝えられなかったり、家族にだからこそ言えなかったり、だからこそぶつかりあってしまう家族ならではの不具合。
円満に見えている桜田家に一石を投じる、マサトの腹違いの弟の来訪から始まるこの物語ですが、たとえばマサトの父の愛人に子供なんていなくて、腹違いの弟が遺産のことで訪ねて来なくても、この二日間に桜田家で起きた問題はいつか発生する『予定』のうちだったのではないかな、と思えました。
きっかけなんてなんでもよかったんじゃないかな、と。
「家族なんて作れない」と言った腹違いの弟・リュウジの気持ちはなんだかよく分かる。ムズムズしてしまう気持ちも分かる。
私はリュウジが感じたそれは『疎外感』なんじゃないかな、と思いましたが、そうではないかも知れません。そうかも知れませんが。
桜田家の『家族ごっこ』が気持ち悪いと言ったリュウジだけれど、桜田家の人間にとってそのごっこ遊びは、限りなくリアルに近い真剣勝負なんだろう、と。
一手でも間違えば崩れ去ってしまいそうなアンバランスな家族の形を、その場にいる全員が微調整を繰り返して、歪だとしても正しく積み上げた、桜田家の家族の形なんだと。
うちはうち、よそはよそ。
家族なんて家族の数だけその形があるはずだから、リュウジが「気持ち悪い」と言ったそれも、間違いなく桜田という家の在り方なのだと。
そのムズムズやイライラは、だから疎外感や寂しさや、そういうものを、恥ずかしくてそんな言葉に置き換えて、でもお前も桜田の人間だよと言われて、上手に受け止められなくて腹を立てたふりで逃げようとしたのかな、と思いました。
嫁のチエちゃんにすら負けてしまうマサト(桜田家最弱)との腕相撲に、わざと負けてしまったのはそれが理由ではないかと。
「俺が勝ったら二度と会わない」
そう言っておきながら、気持ち悪くて関わりたくないムカつく腹違いの兄の家族と永遠に縁を切る最高のチャンスをみすみす逃したのは、リュウジが桜田家にいつか「入れて」欲しかったからなのかな、なんて。
とかなんとか、そんなことを考えていたら、腕相撲のシーンからリュウジが桜田家を去り、ラストのシーンまでひたすら号泣を続けてしまい、なんなら中野駅に戻るまで泣いていました。迷惑の権化か。
なおこれを書いている今も泣いています。感受性豊かか。
そして、キャストさまのお話。(とてもながい)
マサト役、藤波瞬平さん。
2016年、クロジの『きんとと』で初めて拝見してからのイチオシ俳優さん。今回主役で出演されるということで、チケット販売の前から前のめりで待機したほどです。
男娼、偏屈な小説家と卑屈な奉公人、破天荒で無骨な父親という役柄を見てきたので、今回のマサトという人がよくいつもニコニコ笑っている、けれど頑固で簡単には引かない男というのは初めてでした。
改めて、この方の役者としての凄さを見せ付けられた気がします。
リュウジ役、山木透さん。
今回座席の関係で、リュウジが苛立ちを爆発させるまでの流れをかぶりつきで拝見することが出来たのですが、わずかずつ溜まったムズムズしたものを一気に噴出するまでの演技、最高でした。
「何考えてるか分からないと振られる」「それなりに礼儀正しい好青年」という作中の評価、全部「分かる~」となりました。
チエ役、さかいかなさん。
クロジのパンフなどでいつも拝見しているけれど実際舞台に立たれるのを観るのは初めて!
だと思っていたのですが、実は『弁当屋の四兄弟』(2013年版)でそのお芝居は拝見しておりました。失念してた。
そこにいるだけで叱咤も激励もせず、過度に腹を立てることもなく、桜田家にとって潤滑剤のような存在ながら、さかいさんご自身の芯の強さのようなものが流されるだけじゃなくちゃんと桜田家を支えて立つ柱のようなものを見せてくれたような気がしました。
美しく強い女、めちゃくちゃかっこいい。
ナオト役、狩野翔さん。
お名前とお顔とお声は数年前から存じ上げておりました。
が、舞台で拝見したのは2017年の『弁当屋の四兄弟』
空気を読まない、憎めない、場を乱すトラブルメーカーとしての役割がこんなにもハマる役者さんを見たことがありません。すごい。
ケンジ役、浦尾岳大さん。
こちらもお名前とお顔とお声は以下略。
これはいい意味なのですが存在感と言うものが希薄で、すうっと場に溶け込みすうっと消えていくようなすごい役者さんだなあ、と思いました。
前の狩野さんと合わせて、声優さんってすごいな…!と思い知らされました次第です。
リコ役、あきやまかおるさん。
あきやまさんといえばその独特なお声と不思議な雰囲気と、それでいて地に足の着いたお芝居がとてもすばらしい俳優さんだと思っています。
藤波さんのところでも触れたのですが、あきやまさんもやはり役によってお顔や雰囲気の変わる方なのですが、それでもあきやまさんらしさというものは一切失われず、たとえば今回は桜田リコ、という役柄でまさに桜田リコ以外の誰でもないのですが、それでもあきやまさんという俳優さんの魅力はそこに存在する、という本当に不思議な役者さんで、見ていてひとつも飽きないところがすごいなあ、と思います。
ハルキ役、日南田顕久さん。
2017年の『弁当屋の四兄弟』では長男・信秀役を演じられていた日南田さん。
するりとさりげなくその場に立って強い印象を残して去っていく、独特の空気感を持った役者さんでした。笑いも取れる、泣かせもできる、オールマイティさを持っている。
ところで今回、弁当のみなもとの話が出るたび「おい長男言われてんぞ」と思いながらちらちら日南田さんのほうを見てしまいました。
タク役、釜山甲太郎さん。
ザ・チャラ男みたいな役柄でしか拝見したことがないのですが、素……? と思うくらいそれがハマっていて、安心感を持ってそのチャラさを眺めていることができました。
チャラいけど決して悪い奴じゃない、リュウジと対照的でいまどきの若い奴、なタクは多分、幕が下りてもどこかでこんな風に生きているんだろうなあ、という釜山さんとタクの整合性。いやみがまったくないのでずっと見ていてもきっと飽きないんだろうなあ。
と、まあ、凄く長くなってしまいましたが。
きっと桜田家はこれからも些細な大事件を何度も繰り返しながら、もしかするといつかはリュウジも加わって、賑やかに暮らしていくのだろうなあ。
7月3日を過ぎ、7月4日を越えて、明日も、あさっても、それからも。
またひとつ、大事な経験が増えたことが嬉しい。